日本人の平均身長は低下傾向―低出生体重児増加が影響している可能性あり―
全国大規模データを用いて解析
国立成育医療研究センターの社会医学研究部の森崎菜穂室長および生体防御系内科部の横谷進副院長(現職:福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター特命教授)は1969-2014年に生まれた児の出生時の状況と、成人後身長の平均の年次推移を調べたところ、1980年以後に生まれた成人の平均身長は低下しており、低出生体重児増加も一因になっている可能性があることを示した。
この研究成果は2017年8月19日に権威ある疫学関連の雑誌として知られるJournal of Epidemiology & Community Healthより発表された。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構による、「低出生体重児の発症機序及び長期予後の解明に関する研究」(代表 森臨太郎)の一部として行われた。
出生年度別の低出生体重児率(灰色)と成人の平均身長
(1996年までの実測値は実線、1997年以降の予測値は点線。)
プレスリリースのポイント
- 出生体重が低いと成人身長が低くなりやすいことは海外で多く報告されている。
- 本研究では日本人平均身長の年次推移は低出生体重児率のそれと強い逆相関を認めた。戦後、栄養・衛生状態の改善により日本人の平均身長は単調増加を認めていたが、本研究では、1980年生まれをピークに低下傾向に転じていることがわかった。
- 今後も若い世代の平均身長は低下することが予想され、2014年に生まれた人は1980年に生まれた人と比べて男性は1.5cm, 女性は0.6cm身長が低くなることが予想された。
背景
身長の約8割は遺伝的に決定されるが、約2割は栄養状態や健康状態などの幼い頃の生活環境で決定されるため、成人身長はこれらの幼少期の環境の指標になるといわれている。特に、早産あるいは胎児発育不全により、低出生体重児として生まれた児は成人身長が低くなりやすいことは国内外の研究で示されている。また、身長が低いほうが高血圧、冠動脈疾患、脳血管障害を起こすリスクが上がり、平均寿命も短くなりやすいという結果も幅広い人種や国における複数の研究で得られている。
日本では1970年代後半に最低5.1%であった低出生体重児出生率が2007年には9.7%(男児8.5%, 女児 10.6%)となり、現在も高止まり状態が続いている。低出生体重児増加が公衆衛生学的に問題視されて久しいが、その長期的な影響についてはまだ報告されていない。
日本は、明治時代からの栄養・衛生状態の改善により、ここ100年間で平均身長は約15cm伸び、近年は伸び止まっていると思われていた。
研究手法と成果
低出生体重児(2500g以下での出生)出生率はU字カーブを描き、1978-1979年に最低値をとった後は増加していた。一方で、平均成人身長は1978-79年 [男性 171.5cm, 女性 158.5cm] をピークに以後20年間低下していた。低出生体重児出生率はその年に生まれた児の平均成人身長と強い逆相関を示した(男性 r=-0.98; 女性 r=-0.88)。出生情報と経済指標を基にした成人身長の予測モデルでは、平均身長は今後も低下し続け、2014年生まれの平均身長は男性では170.0cm (95%信頼区間 169.6, 170.3)、女性では157.9cm (95%信頼区間 157.5, 158.3)となることが予測された。
今後の展望・コメント
発表論文情報
- 著者:Naho Morisaki, Kevin Y. Urayama, Keisuke Yoshii, SV Subramanian, Susumu Yokoya.
- 題名:Ecological analysis of secular trends in low birth weight births and adult height in Japan.
- 掲載誌:Journal of Epidemiology & Community Health
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